2026.06.24

47都道府県、“水の味”で読み解く食文化。前編

photo / Norio Kidera
text / Hitomi Takano
edit / Akio Mitomi

全国約1,700地点の調査から見えてきた、水の多様性と地域性

2026年6月6日、東京・大手町のKAITEKI CAFE PRODUCED BY Cleansuiで開催されたイベント「47都道府県、“水の味”で読み解く食文化」。三菱ケミカル・クリンスイと東京大学環境分析化学研究室による共同研究をもとに、日本各地の水の特徴や食文化との関わりについて紹介された。

登壇者は、東京大学教養学部環境分析化学研究室 特任助教の堀まゆみ先生、東京大学大学院総合文化研究科 助教の小豆川勝見先生、三菱ケミカル・クリンスイ株式会社技術部の中山幹子さん、三菱ケミカル株式会社竹田はつ美さん、アイランド株式会社 代表取締役の粟飯原理咲さん。

前編では、全国規模の水質調査から見えてきた“水の個性”や、その違いを可視化する研究についてお届けする。

まず堀先生は、参加者に「お気に入りの水ってありますか?」と問いかけた。

旅先で出会った湧水や毎日飲んでいる水道水。普段何気なく口にしている水だけれど、その違いを意識する機会は意外と少ない。堀先生によると、日本は「水が豊かな国」と言われる一方で、水そのものの地域特性を広い視点で調査した研究は決して多くないのだそう。

研究室では約10年にわたり、日本各地の水道水や井戸水を調査。これまでに国内約1,700地点、海外約300地点、計約2,000地点で採水を行い、水質成分を分析してきた。なかでも、会場の関心を集めたのが日本の水道水の水源についての話だ。

「私たちは川の水を飲んでいるんです」

海外の水道水は地下水を水源としていることが多いのに対して、日本の水道水の多くは河川やダムを水源としている。蛇口をひねれば安全な水が飲めることが当たり前になっているけれど、その背景には豊かな降水量と河川を活用する日本ならではの知恵があった。

さらに興味深かったのが、水の個性が生まれる仕組みについて。意外なことに、雨や雪にはほとんどミネラルが含まれない。地面に降った水は、岩石や土壌と触れ合いながらカルシウムやマグネシウムなどを取り込み、その土地ならではの特徴を持つ水へと変化していくのだそう。

一般的に日本は「軟水の国」として知られているけれど、全国を見渡すと地域ごとに水の特徴は異なる。雪解け水の影響を受ける東北地方はミネラル分が少ない軟水の傾向が強く、琉球石灰岩の影響を受ける沖縄県ではカルシウムやマグネシウムを多く含む硬水の傾向を示すなど、地質や環境によって水の性質は大きく変わるという。

「多様性の時代と言われていますが、水にも多様性と地域性があります」

堀先生の言葉どおり、無色透明に見える水にもその土地ならではの個性が隠れているのだとわかった。

その違いは、味にも表れているのだろうか。続いて、登壇した中山幹子さんと竹田はつ美さんからは、水の味を客観的に捉える研究について紹介された。

活用されたのは、人の舌の働きを模した「味覚認識装置」。感覚的に語られることの多い味わいを数値化し、水の特徴を可視化することができる。これまでにも「おいしい水」を定義しようとする研究は行われてきたけれど、ミネラル成分だけで味を説明することは難しく、水のおいしさにはさまざまな要素が関わっている。

味覚認識装置は、手のひらに載るほど小さなセンサーだが、その中には人の舌の働きを模した人工脂質膜が使われている。味のもととなる物質が膜に触れた際の反応を数値化することで、人が感じる味わいに近い形で評価できる。

「人が感じる味を、できるだけ客観的に評価したいと思っています」と竹田さん。

一般的な化学分析が「何がどれだけ含まれているか」を調べるのに対し、味覚認識装置は「人がどう感じるか」を捉えることを目指している。

全国の水道水を味覚認識装置で分析したところ、興味深い結果も見えてきた。

「単純な指標では説明できないのですが、東北と九州にはなんとなく傾向が見えるんです」

竹田さんがそう説明すると、スクリーンに映し出されたグラフに参加者たちも熱心に見入っていた。

水の硬度と塩味値には一定の関係が見られたものの、酸味やうま味はそれだけでは十分に説明できなかった。そこでさらに分析を進めたところ、全国の水道水には地域ごとの特徴が存在することが明らかとなった。特に、東北地方の水は「酸味値がやや強く、うま味控えめ」な傾向、九州地方の水は「酸味値が穏やかで、うま味を感じやすい」傾向がみられた。

なお、これらはおいしさの優劣を示すものではない。これまで感覚的に語られてきた水の違いを、客観的なデータとして捉えることができた点に意義がある。

「これまで感覚で語られていた水の違いを、データとして捉えられるようになってきました」

水の個性を可視化することで、地域ごとの違いが少しずつ見えるようになってきた。その結果に、参加者も興味深そうに耳を傾けていた。

「安全であることと、おいしいことは別の評価軸なんです」

実際、水道水の安全性を左右する有害物質の多くは人の舌では検知できない。一方、おいしさはミネラル成分だけでなく、香りや口当たり、さらには飲む人の経験や環境によっても変化する。だからこそクリンスイでは、安全な水を届けるだけでなく、水そのものを深く知り、その価値を伝えるための研究を続けている。

全国約1,700地点におよぶ調査から見えてきた、日本の水の多様性。そして、その違いを可視化しようとする挑戦。今回のイベントからは、水への飽くなき探究心と情熱が伝わってきた。 後編では、「九州・沖縄の甘味文化・発酵と硬水の関係」をテーマにした様子や飲み比べ体験をレポートする。


最新情報はクリンスイ水の編集部Instagramアカウントで @cleansui_knows

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