2022.02.10

グラフィックデザイナー
佐藤卓さんと水との関係。 前編

photo/Norio Kidera
edit & text/Akio Mitomi

サーフィン体験から「water」展へ。

2009年にクリンスイのCI(コーポレート・アイデンティティ)計画グランドデザインをプロデュース、現在も使われている赤いマークなどでクリンスイのブランドイメージを統一したグラフィックデザイナー・佐藤卓さんに、水について改めてお聞きしました。

――ラテン打楽器のコンガ演奏やロングボードでのサーフィンなど、佐藤さんは多趣味な方ですが、最初に水を意識したのは、やはりサーフィンでしたか?

サーフィンは自分を大きく変えてくれました。会社員時代に始めて、一発ではまりました。春に始めてクリスマスまで、毎週のように通いました。当時27歳でしたが、「こんなに感動することがあったのか!」と。実はその頃はまだ、水に対して特別な感情を持ってはいませんでしたね。ただ、明け方の昇る太陽が海の波によく映える景色が、ものすごく美しかったのをよく覚えています。

―そんな佐藤さんが2007年、東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTの第2回企画展「water」をディレクションすることになったきっかけを教えてください。

2003年ごろ、デザイナーの三宅一生さんから21_21 DESIGN SIGHTを一緒にやりたいとお声がけいただき、プロダクトデザイナーの深澤直人さんと3人でディレクターを務めることになりました。一方、その頃よくお会いしていた文化人類学者の竹村眞一さんに、あるとき「牛丼1杯にどれぐらい水が使われているか知ってる?」と聞かれたのです。「せいぜい2Lぐらい?」と答えると、「実は2,000L以上も使われているんです」と。牛が飲む水、トウモロコシなど穀物を作る水、米を作る水など、牛丼1杯のために使われる水の総量が約2,000L。相当な量の水で作られた牛丼を、あっという間に食べてしまっていることを、そのときまで知りませんでした。そういった「見えない水」の存在に、竹村さんが気付かせてくれたのです。

21_21 DESIGN SIGHT第2回企画展 佐藤卓ディレクション「water」ポスター。

――「water」展を通して、水に対する意識は変わりましたか?

21_21 DESIGN SIGHTは、デザインに関して新たなことをやる方針になっていたので、いろいろな角度から水に触れるきっかけを作ろうと思いました。竹村さんと展覧会の準備を始めましたが、いかに水のことを知らなかったかを感じる毎日でした。牛丼1杯の水の話で、「水で物事を見る視点」が自分の中に生まれたんですね。3年かけて準備しました。モーリタニアの砂漠まで撮影に行ったり、筑波では水の分子構造H2Oが104.5度の角度で安定することを知った。そうでなければ、地球上に生命が生まれなかったかもしれないということも。ほかにも、水は特別な物性を持っていて、凍って液体が固体になると比重が軽くなる。普通の物質は逆だそうです。水の分子どうしが互いにくっつきたがるので、表面張力が生まれる。ギリギリまで手を繫ごうとするのでフチでぐっと上がる。そんなことを知ってからサーフィンに行くと、海面の見方が変わりました。「水のありよう」を見るようになりましたね。

――「水で物事を見る視点」は今、より大切になりました。

物理学者のエルヴィン・シュレーディンガーによると、コップ1杯の水を海に混ぜて、世界のどこかの海でまた水をすくうと、元のコップの中の水の分子が約100個混ざってくると推計できるそうです。それを知ってコップ1杯の水を見ると、自分が豊かになった気がしました。次々と水の世界を知って、自分自身が感動したことを、どう展示しようかと考えたのが「water」展だったのです。

さとうたく

グラフィックデザイナー。1981年東京藝術大学大学院形成デザイン科修了、電通勤務を経て1984年佐藤卓デザイン事務所(現TSDO)設立。「ニッカ ピュアモルト」の商品開発から「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などのパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」のシンボルマークデザインなどまで幅広く手掛ける。またNHK Eテレ「デザインあ」総合指導、21_21 DESIGN SIGHT館長、日本グラフィックデザイン協会会長を務める。展覧会に『デザインの解剖展』、著書に『塑する思考』など。
https://www.tsdo.jp

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