飲み会のときや晩酌のときにお酒を飲むと、お手洗いに行く回数が増える経験はありませんか。それはお酒に含まれているアルコールが体内に働く作用によって起こる生理現象です。さらにお酒を飲み続けて過剰摂取になると脱水症状をおこす危険性も高まります。
そうならないためにも、ここではお酒を飲むと脱水症状になりやすい理由や脱水時に起こる症状、アルコールの吸収・代謝をしやすい人の特徴、脱水症状を抑えるための予防策などをご紹介していきます。
お酒を飲むと脱水症状になりやすい理由は?
お酒には利尿作用があるアルコールが含まれているため、脱水症状になりやすいと考えられています。一般的にアルコールというとエチルアルコール(慣用名:エタノール)を指しており、このエタノールが脳下垂体後葉に作用し抗利尿ホルモンの分泌を抑えることで、腎臓からの水分を促進し、尿となって排泄されると考えられています。※1
抗利尿ホルモンとは、生命を維持するために水分の出入りをコントロールしているホルモンです。主に、尿量を抑えて水分を体に貯めるように働いています。
エタノールによる利尿作用は、血液中のエタノール濃度が高くなるときにしか作用しません。そのため、エタノールを多く含むお酒を飲み続けたり一気に飲んだりするとお手洗いに行きたくなるのです。エタノール濃度はお酒の種類によって異なりますが、たとえば10本分のビールを飲むと飲んだ本数よりも多い11本分の水分が排泄されてしまうといわれています。
脱水ってどんな症状?
脱水症状は、体重に占める水分の減少率によって症状が異なるのをご存知でしょうか。喉の渇きを感じた時点で脱水が発生しており、水分減少率2%までがこの症状です。さらに脱水が進み水分減少率3〜4%になるとイライラしたり食欲が無くなったり、疲労がたまりやすくなったり皮膚が赤くなったりします。
水分減少率が5%を超えると呼吸がしにくくなったり言葉が伝わりにくかったり、痙攣(けいれん)したり身体が揺れている感覚になったりして生命に危険を及ぼす可能性が高まるのです。※3 できるだけ脱水症状が軽いうちに水分補給を行い、危険な状態から回避するのを意識しましょう。
脱水は二日酔いの原因の一つと考えられている
お酒を飲み過ぎて二日酔いになった経験がある方も多いのではないでしょうか。二日酔いがなぜ発生するのかという機序(メカニズム)は現時点でも解明されていませんが、二日酔いになる過程には脱水も関わると考えられています。※4
とはいえ、脱水症状が起きる=二日酔いになるのではありません。脱水以外にもホルモン異常や低血糖、電解質異常、酸塩基平衡異常、炎症反応、睡眠障害、生体リズム障害、アセトアルデヒドの蓄積、胃腸障害、メタノール、不純物などの複数要因が絡み合って二日酔いは起きていると考えられています。※4
アルコールを吸収しやすい方の特徴
お酒に強い方や弱い方など様々なタイプの方がいますが、要因の一つとして体内でのアルコールの吸収と代謝の速さなどが関係しているとされています。
まずアルコールを摂取すると口腔や食道粘膜からわずかに吸収されて、胃で25%、小腸で残りのほとんどが吸収されます。吸収されるとすべて血液へ移行するため、血中アルコール濃度に大きく影響してしまうのです。※5
また小腸よりも胃で吸収されるほうがゆっくりと吸収されるので、血中アルコール濃度も緩やかに上昇します。利尿作用含むアルコールの様々な作用は血中アルコール濃度の高さが影響しているため、できるだけ小腸へ移行する時間を長くできるかがポイントです。※6
たとえば空腹時にアルコール度数の高い焼酎やウイスキーを薄めずに飲むと血中アルコール濃度が非常に高まりますが、食事をしながらアルコールを飲むとアルコールの吸収速度を抑えられるので血中アルコール濃度の急激な上昇を抑えられると考えられています。※5,6
アルコールを代謝しやすい方の特徴
体内に吸収されたアルコールは主に肝臓でアセトアルデヒド、そのあと主に筋肉などで酢酸に代謝されます。このアルコール代謝に関わってくる酵素の多型や量によってアルコールを代謝する速さなどが異なる、つまりお酒に強いか弱いかが変わる、と考えられているのです。※6
まずアルコールがアセトアルデヒドに分解されるときに主に関わるアルコール脱水素酵素には1A、1B、1Cの3種類が存在します。そのうちの1B型にはアルコール分解が遅い多型も存在し、遅い多型を持っているかどうかでアルコールの代謝速度が異なってくると解明されているようです。※6
ほかにもアセトアルデヒドに分解されるときには、酵素の一つであるチトクローム(CYP2E1)が関わっており、習慣的な飲酒で増えたり減ったりします。初めはあまり飲めない方でも多くのお酒を飲めるようになった経験はありませんか。お酒を毎日多量摂取しているとCYP2E1が増えるので、だんだんとお酒に強くなるのはこのためです。※6
アセトアルデヒドから酢酸に代謝されるときにはアルデヒド脱水素酵素が関わっており、遺伝子多型が存在します。ある多型を所持していると、酵素活性が無いか少量のため、お酒が飲めないか弱いかになります。このようにある遺伝子多型を所持しているかどうかで、お酒に強いかどうかが変わってくるのですね。※6
一日のアルコール摂取量の目安
前述のように体内に吸収される消化器官の違いや、持っている酵素の種類や量によってアルコール代謝速度が異なるので一概にはいえませんが、一般的に適量とされるアルコール摂取量の目安は示されています。
厚生労働省によると「節度ある適度な飲酒」として一日の平均純アルコール摂取量で約20gです。※7 また生活習慣病のリスクを高める目安量としては、一日あたりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上と示されています。※8
飲酒量はお酒の種類や量ではなく純アルコールの摂取量を元に考えるので、お酒の種類をどれだけ飲めるのかは純アルコール量から逆算して考えます。※9
節度ある適度な飲酒の目安量である純アルコール20gではお酒の種類によって何mlほど飲めるのかというと、厚生労働省の主な酒類換算の目安によると以下です。ぜひ目安にして飲み過ぎを防ぎましょう。※7
ビール:500ml(中瓶1本・アルコール度数5%)
清酒:約180ml(約1合・アルコール度数15%)
ウイスキー・ブランデー:60ml(ダブル・アルコール度数43%)
お酒を飲んで脱水にならないための対処法は?
お酒を飲んでも脱水しないようにするためには、水分補給が重要です。水分補給にも脱水にならないコツがあるため、以下の3つを意識してみてくださいね。
喉の渇きを感じる前にこまめに水分補給
喉が渇いた時点で脱水状態です。飲み水から1日に必要な水の量は約1.2リットルとされているため、喉の渇きを感じる前からこまめに水分補給をして1.2リットル以上を目安に水分補給を行いましょう。※2
飲酒前・飲酒中・飲酒後にも水分補給
アルコールには利尿作用があるため、飲酒前、飲酒中、飲酒後に水分補給を行い脱水を防ぎます。特に飲酒中には小さいコップで飲む、2杯目からノンアルコールに切り替える、和らぎ水を飲む、料理も一緒に食べる、お通しを食べてから飲むなど血中アルコール濃度が高くならない工夫も必要です。
アルコール飲料だけを飲むのは危険です。酒の肴をきちんと摂取することで、食事からの水分が補われます。またお通しを摂ってから飲むようにすると、アルコールの吸収速度を抑えて飲む前の水分補給にもなるので、おすすめです。
また常日頃から、休肝日を設けたり飲酒以外のストレス発散法を見つけたりするのも効果的でしょう。※10
和らぎ水については下記の記事を参考にしてください。
水分補給は水か白湯で
水分補給に適しているのは、水や白湯です。アルコールが入ったお酒はもちろんのこと、カフェインが入ったコーヒーや紅茶は利尿作用があるため、おすすめできません。※2 また糖分が多いジュースなどは摂取エネルギーが増えて肥満につながり、生活習慣病につながる可能性があるため向いていないでしょう。※11
このような理由から、水や白湯にはアルコールやカフェイン、エネルギー(カロリー)源となる糖質や脂質が入っていないのでおすすめといえます。以下の関連記事も参考にしてください。
アルコールを飲むときには利尿作用に気をつけよう!
お酒に含まれるアルコールには利尿作用があり、持っている酵素の種類や量によってアルコール分解能力も異なります。飲酒前・飲酒中・飲酒後にこまめに水分補給を摂取することはもちろん、日頃から休肝日を設けたりお酒をストレス発散材料にしないようにしたり気をつけましょう。
また水分補給をするときには水か白湯がおすすめと前述しましたが、ミネラルウォーターか水道水どちらが良いのか迷う方もいらっしゃるでしょう。
水質基準が厳しく、環境にも優しいのは水道水です。また水道水にはミネラルが含まれていないイメージがある方もいるようですが、ミネラルは含まれており、地域によって含有量が異なります。
さらに水道水をより美味しく、より安全に飲みたい方は浄水器がおすすめです。浄水器にも様々な種類があるため、何を選べば良いのかわからない方はぜひ以下であなたに合った製品を見つけてください。
製品一覧は以下を参考にしてください。
製品一覧
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【参考文献】
※1 東邦大学|飲酒の生理
※2 厚生労働省|健康のため水を飲もう講座〜からだと水の関係〜
※7 厚生労働省|アルコール
※8 厚生労働省|健康日本21
谷口 英喜
日本麻酔科学会を始め、多数の学会で専門医・指導医を務める麻酔医師・医学博士。神奈川県済生会横浜市東部病院患者支援センター長も務める。栄養分野も専門としており、脱水症に対する治療法「経口補水液療法」の第一人者としても知られている。『いのちを守る水分補給: 熱中症・脱水症はこうして防ぐ』を始めとした著書も多数。