前編はこちら
【潤いのレシピ】 森枝幹(昼食編) 時間がないときにも、つまみたくなる茶卵を
「ガストロミーの文化も大切だけれど、受け継がれるべき食文化はそれ以外の分野にもたくさんあり、料理人ができることはまだまだある」と、話す森枝幹シェフ。朝食編では「茶粥」のレシピを教えてくれましたが、今回は昼食や軽食としても重宝する「茶卵」の作り方を教えてくれました。材料と作り方は下部にまとめています。
2020.07.01
有名シェフの素材への向き合い方を聞きながら、日々の食から暮らしに潤いを与えるようなレシピを朝・昼・晩と三食ご提案いただく連載企画【潤いのレシピ】。
飲食店のプロデュースやメニュー開発、イベントの企画・主催からYouTubeでの動画配信まで、さまざまな形で食の文化を発信し続ける森枝幹シェフ。朝食編では「茶粥」、昼食編では「茶卵」のレシピを教えていただきました。夏場の夕食にぴったり、と教えてくれたのは「煎茶トマト素麺」。材料と作り方は下部にまとめています。
「日本人の私たちにとって、だしといえばもちろん、鰹節や昆布が基本だけれど、それ以外にも可能性があるよ、という提案です。旨みのもとなる素材は、身近なところに意外とたくさんある。〇〇料理だから、と考えを狭めずに使うことで、日常の食がより豊かになるはず」
料理名の通り、煎茶とセミドライトマトで取ったスープが味の土台。
「煎茶の青い香りとほのかな渋みがつくるボディ、凝縮感のあるセミドライトマトから抽出する旨み。抽出もポットからお湯を注ぐだけなので、和食のだしをひくより手軽です。ほんの少しの塩分を加えるだけで、極上のスープになる。あとは麺つゆとして麺の味を支えられるよう、酸味や香味を加えて味を立体的に組み立てていく。油脂や動物性たんぱく質に頼らずとも、深い満足感が得られる味になりますよ」
ユニークな立ち位置で活動する森枝シェフですが、ベースは[サーモン&トラウト]にあると話します。シェフを務めながらも2か月に1回は海外へ赴き、ガストロノミーからストリートフードまで各地の食文化を探りながら、世界を舞台に活躍する料理人、ソムリエとの繋がりを築いてきました。タイに行くたびに通ったイノベーティブレストラン[80/20bkk]の星野早紀さん夫妻との出会いは、自分がタイ料理店[chompoo]を手掛けるきっかけになったといいます。
「サモトラでは、海外で活躍する同世代の仲間が、帰国したタイミングでポップアップイベントをやってくれたり。僕自身のフィールドワークを編集、アウトプットする場としてだけでなく、多彩なシェフたちが集うハブとしての役割を担えたことについても、一定の達成感を覚えています」
だからこそ、次のステップに進んだと話す森枝シェフ。「評価が定まってくると、違うことがしたくなるんですかね」と、笑いながら話します。2020年は、映画製作及び映画祭の開催にまつまるプロジェクト、音楽フェスのフードセクションの監修とビッグプロジェクトが次々と実現する予定でした。が、このコロナ禍で、多くが中止を余儀なくされたといいます。
「時間をかけて準備をしてきたので残念ですが、できることがなくなったかといえば違う。シャンパーニュメゾンと一緒に動画コンテンツをつくったり、長崎県五島市とタッグを組んで五島の魚を使った郷土料理レシピを配信したりしています 」
企業を巻き込んだ大きなプロジェクトから、インディペンデントな発信まで、形はさまざま。料理人として、レストランの看板やガイドブックの星、ランキングの評価などにとらわれることなく、「何を見て考え、どう発信するか」を重視する。前例がない料理人の活動スタイルは、かなりエキセントリックにも見えますが、伝えたいのは「食文化の根っこ、食べるという行為の本質」と繰り返します。
「和食を学んでよかったと思うのは、油脂に頼らない味づくりの大切さを学んだこと。昆布だしだけで炊いた瓜のおいしさとか、柑橘か醸造酢かで変わる酸味とか。この舌の感性を失うと、食文化全体が油脂×塩のファストフードカルチャーに飲み込まれていく。日本の食文化を支える繊細な旨みは、農業、漁業など一次産業の多様性、生産、仲買などの流通、加工に携わるまでさまざまな段階でのプロフェッショナルに支えられてきた。醤油や酢、酒の醸造に使われる桶や樽といった道具づくりも然りです。どれが欠けても、食文化は守れない。一極集中のトレンドには距離を置いて、そういうことを発信し続けたい。同世代の料理人をはじめ食のプロとも協力して。口うるさく、地味に、でもポップに(笑)」
「煎茶トマト素麺」は、そんな森枝シェフの考えを表現した一皿。
「素材の力強さでも、調理の技術でもないところに存在する“おいしさ”。だし文化という和食の技法をベースに、発想の転換で組み立てた料理です。だしを抽出する際のポイントは、セミドライトマトの成分を抽出しやすくなるよう、切断面を増やすように小さな角切りにする。生姜は湯を注ぐ前に叩いて香りを立てる。先に熱い湯でトマトのだしを取り、やや湯温が冷めたところに茶葉を入れ、煎茶はやさしく抽出する」
「柔らかくピュアな水を用いるのは大前提です。クリンスイの浄水を使うことで、素材の味を過不足なく引き出し、ひとつにまとめてくれる。水は大事な素材ということを、改めて認識させられますよね」
お茶のほろ苦さと醸造酢の旨みを含む酸味、すりおろしたきゅうりの青い香りが、ごくわずかな塩分と美しい水でひとつになる味。油脂や動物性たんぱく質はゼロ。精進料理のように滋味深く、ガストロノミーの一皿のように感性を刺激する、「さっぱり」だけで終わらない夏の冷たい麺です。
材料(一人分)
作り方
今回、森枝さんが使用したのは、美味しい水のブランド『Cleansui』のお茶をおいしくするための水をつくるポット型浄水器、「和食のためのクリンスイ JP407-T」。“お茶ならではの繊細な味わいを感じるために、お茶専用の水があればいいのに”という想いから開発。品種はもちろん、採れた時期や場所、製法によって変化するお茶本来の風味を素直に引き出す水について吟味を重ね、クリンスイの技術で実現。甘み、渋み、苦みといった それぞれのお茶が持つ味わいを楽しめます。
1986年生まれ。辻料理師専門学校を卒業後、シドニーの和風フレンチレストラン[Tetsuya’s]で修行。その後、日本料理の[湖月]、分子ガストロノミーで有名な[タパス モラキュラーバー]で修行を重ねる。東日本大震災をきっかけに独立を決意。2014年世田谷区代沢にオープンした[サーモン&トラウト]のシェフを務めて話題に。同店を卒業後、現在渋谷パルコ4階にタイ料理レストラン[chompoo]をオープンしシェフを務める。
Instagram:@moriedakan